078-945-5460(受付時間:平日9:00〜18:00まで)
令和3年の民法・不動産登記法の改正により、所有者不明土地(登記簿により所有者が直ちに判明しない土地又は所有者が判明してもその所在が不明で所有者に連絡がつかない土地)の解消に向けた従来の法制の見直し策の一つとして、相続登記の申請が義務化されるということは、多くの皆様の耳に入ってきているところと思います。
制度の詳細な解説は他サイトに譲るとして、本コラムでは、この度の改正について当職が注意すべきと考える点と、相続によって不動産を承継したものの登記をせず放置してしまっている方が何をすべきかということを中心にご説明したいと思います。
従前、不動産を所有する被相続人に関して相続が発生した場合、相続人がその不動産について登記をするかどうかは自由でした。
しかし、今後は、不動産登記法の改正により、相続又は遺贈により不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられることになります(不動産登記法(以下「法」と言います。)76条の2第1項)。
そして、正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処せられるおそれがあります(法164条1項)。
このような内容を含む不動産登記法の改正法の効力が発生する施行日は令和6年4月1日とされています。
この改正法については、以上の内容面のほかに大事なポイントがあります。
それは、施行日前に相続が発生していた事案についても改正法が適用され、相続登記未了の不動産の相続人に登記申請義務が課されるという点です。
つまり、「過去に被相続人所有の不動産について相続等により所有権や共有持分を取得したものの、特に何も対応せずにそのままにしている」という方についても改正法が適用されるという点に注意が必要です。
しかし、この点について心配に思われた方も、安心してください。
そのような方の場合の登記申請義務の履行期間(3年間)は、①自己のための相続開始があったことを知り、かつ、当該不動産の所有権を取得したことを知った日か、②新法の施行日(令和6年4月1日)の、いずれか遅い日からスタートされることとなっています(改正法附則5条6項)。
したがって、過去に相続が発生したものの、特に手当をせず、被相続人名義の不動産が未分割のままになっているなどの事情がある方も、上記②のとおり、新法が施行される令和6年4月1日から3年間の間に登記申請義務を履行すれば、まずは大きな問題は生じにくいものと思われます。
過去に不動産について相続が発生したものの、相続に関する登記がなされずそのままになっているという方について、今後具体的に何をすればよいかということを簡単にまとめて説明します。
まず、被相続人の遺言や遺贈がなく、共同相続人間の遺産分割も終了せずそのままになっている場合、つまり、被相続人の相続は発生したものの共同相続人間でその最終的な帰属がはっきりと決まっていない場合には、改正法の施行日から3年以内に、改正前から制度として存在する「法定相続分での相続登記手続」を行うか、改正法によって新設される「相続人申告登記手続」(法76条の3)を行えば、改正法が相続開始後に要求する登記申請義務を履行したことになります。
もっとも、「法定相続分での相続登記手続」では、法定相続人の範囲及び法定相続分の割合を確定するために、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本等の書類の収集が必要ですが、「相続人申告登記手続」ではそれらが不要で、手続申出をする相続人が被相続人の相続人であることがわかる相続人の戸籍謄本を提出することで足りるとされていますので、資料収集の負担という点を考えるなら「相続人申告登記手続」の選択一択になるものと思われます。
次に、改正法の施行日後に相続人申告登記手続を行ったとしても、その後に遺産分割が成立した場合には登記申請義務が追加されている点は注意が必要です。
すなわち、改正法の施行日後に遺産分割が成立した場合、遺産分割成立の日から(相続開始日からではありません。)3年以内に、遺産分割の内容を踏まえた所有権の移転の登記手続の申請義務が追加して課されます(法76条の2第2項、同76条の3第4項等)。
したがって、この場合には、遺産分割の内容を踏まえた所有権の移転の登記手続を行うことで、改正法が遺産分割手続終了後に要求する登記申請義務を履行したことになります。
なお、改正法の施行日後3年以内に遺産分割が成立した場合、遺産分割成立の日から3年以内に遺産分割の内容を踏まえた所有権の移転の登記手続を行っていれば、その前に相続人申告登記手続を行っていなくても、改正法が要求する登記申請義務を履行したことになります。
また、改正法の施行日前に共同相続人間で当該不動産について遺産分割が成立している場合には、改正法施行日から3年以内に、遺産分割の内容を踏まえた所有権の移転の登記手続を行えば、改正法の要求する登記申請義務を履行したことになります(法76条の2第1項、改正法附則5条6項)。
最後に、被相続人の「相続させる」旨の遺言(「特定財産承継遺言」と言います。)や遺贈によって、当該不動産の所有権等を既に取得している場合には、改正法の施行日から3年以内に、遺言や遺贈の内容を踏まえた所有権の移転の登記手続を行うか、相続人申告登記手続のどちらかを行えば、申請義務を履行したこととなります(法76条の2第1項、同76条の3)。
改正法では、遺言や遺贈によって不動産の所有権等が確定した場合には、遺産分割が成立した場合と異なり、相続開始後に求められる登記申請義務に加えてさらに登記申請義務の追加がなされていないため、改正法の施行日前に遺言や遺贈によって不動産の所有権等を取得した場合には、相続人申告登記手続のみを行うことで登記申請義務を履行したことになります。
不動産の相続登記の義務化に関して、一部の事例を基に概説しましたが、以上の説明によっても「具体的に自分の場合にどうすればいいのか不安だ」、「よくわからない」という方もいらっしゃると思われます。
その場合には、特に改正法に関する部分でもありますので、お早めに、あかし興起法律事務所の弁護士渡邉友にご相談いただければと思います。