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2022.07.06

障がいを持つ子の「親なきあと」の財産管理問題にどう向き合うか

障がいを持つ子の「親なきあと」の財産管理問題にどう向き合うか

障がいがあるお子様をお持ちの方にとって、自分が死亡した後、わが子がちゃんと生活できるのだろうかということに大きな不安をお持ちであろうと思います。
しかし、お子様の障がいの程度は様々ですから、障がいの程度が特に重くない場合などは、いつか考える問題とは理解しているものの、実際は特に何も対策をせずに日々を過ごしてしまっている方も、実際上は多くいらっしゃると思います。

本記事では、現時点で特に対策をしていないけれども将来に向けて対応は必要だとは思っているが、まず何をしたらいいのかを知りたいという方向けに、「親なきあと」問題の中で特に財産管理についての問題点やそれらの問題の解決策について触れていこうと思います。

もっとも、初めに結論をお伝えしますと、この問題については一つのことをしておけば後は大丈夫という解決策はなく、一つ一つ必要と思われることに対処し、時の経過に伴って変化するお子様の障がいの程度や周囲の状況を踏まえて対応の見直しや必要な対応の追加を図っていくということが大事だと考えます。
したがって、障がいを持つ子の「親なきあと」の財産管理問題については、長い目で見て都度必要な対応に当たっていくことが大事だということをまずは知っておく必要があります。


「親なきあと」の財産管理についての問題点

ある事例を用いた説明

障がいのある子の「親なきあと」問題と一口に言っても問題となる事柄は様々です。
親が亡くなった後の衣食住の生活の場をどこにするか、子の日常の世話を誰がどのように行うかなどの問題ももちろん頭を悩ます事柄でありますが、ここでは特に、重度な知的障がいを持つお子様がいる場合の財産管理問題について簡単に説明をしていきたいと思います。

お子様に重度の知的障がいがある場合、親が健在である限り、財産管理についてトラブルが生じることは実際上はあまり想定されませんが、親に万が一のことがあった場合に問題が顕在化します。

例えば、家族は夫・妻・成人となった障害を持つ子1人で、3人が同居している状況で夫が死亡した場合を例に考えます。
この例で、もし、被相続人たる夫が特に遺言書を作成していなかったとき、残された妻と子は、被相続人の遺産を承継するために遺産分割を行う必要があります。
しかし、子が、重度の知的障がいを持ち、自身の行為の意味や結果についての判断する能力を欠いている場合には、妻は、自分と子の2人で話し合って遺産分割を決めるということはできず、裁判所に対し、子のために成年後見人をつけるよう求め、その結果選任された子の代理人である成年後見人と話し合い、それなりに時間をかけて遺産分割手続を進めていかなければなりません。
成年後見人は子の利益を守るために選任されている立場であるため、妻としては、子の将来のために自分が被相続人の遺産をすべて承継し、管理していこうと考えていたとしても、成年後見人からの同意を得ることは簡単ではなく、通常は、被相続人の遺産を子と分け合って承継する可能性が高いと思われます。
そして、成年後見人の任務は遺産分割で終了するわけではないため、以後は、子の財産は、成年後見人が管理することとなり、妻は、子と同居していても、いかに子の利益となる使いみちであったとしても、長期にわたって、子の財産を成年後見人の了解なくして自由に使うことができなくなるおそれがあります。
また、士業などの専門職が成年後見人に就いた場合、通例、月額2万円程度以上の報酬が任務に就いている間ずっと発生していくおそれもあります。

問題点の要約

誤解のないようにお断りをしておくと、この設例で問題としてお伝えしたいことは、決して「成年後見人が就くことが悪い」ということではありません(例えば、父母が死亡した後の子の身上監護や財産管理に関する事柄について成年後見人が対応が必要な場面は多数あります。)。

自身らの子に重度の知的障がいがある場合、多くの父母は、それぞれが健在なうちは、子の監護を自身らが分担して行い、自身にもし万が一のことがあった場合には、自身が蓄えた財産を他方の残された配偶者に託し、当該配偶者と子の生活のために充てたいとお考えになるのではないでしょうか。
上記設例の夫婦もそう考えていたとしたら、被相続人たる夫は、残された妻に財産を託し、妻と子の今後の生活のために充てようと考えると思われますが、対策を講じていなかったがために、妻が健在であるにもかかわらず、不必要な手間と費用がかかるなどして思い描いていたものとは別の結果になってしまっているわけで、そこが問題なのです。


「親なきあと」の財産管理に関し、親は何をすべきか

設例の事案の場合、まずは、夫婦それぞれが健在のときに、自身が死亡した場合はその財産をすべて他方配偶者に相続させる旨記載した遺言書を作成しておけば、少なくとも、残された妻が健在である限りは、夫の財産を余計な手間・費用をかけずに妻が管理するという結果を導ける可能性が高かったものと思われます。

ただ、不幸にして夫婦とも同じ時期に死亡してしまったら、以上の対応では、残された子の「親なきあと」問題への対応としては不十分なものになります。

また、仮に夫のみが死亡し妻が健在であったとしても、本当の問題はそこからです
夫の遺言書による対応で大きな問題までは生じなかったとしても、いつ何時、妻に万が一のことがあるかはわかりません。
また、時が経過し、認知症等の発症により妻自身の判断能力が乏しくなる場合も想定されます。
妻の死亡や判断能力の低下というそれぞれの場面で、重度の知的障がいのある子本人に財産管理の対応を求めることは現実的には厳しいでしょう。
それらの場面に適切に対応していくためには、妻が、自身が死亡した場合に必要な事務処理を専門家などに「死後事務委任」として依頼しておくことや、信頼できる親族や専門家等に対し、自身の判断能力を欠く状態になった際に入所する施設の料金支払や自身なきあとの子の生活費の支払等の目的で自身の財産を信託して管理する「信託制度」を利用することなども検討する必要があるでしょう。
親なきあとのために財産を子に残すという観点からは、そのほかにも「生命保険信託制度」「障害者扶養共済制度」などの有益な制度の利用の検討も講じる必要があるでしょう。

また、設例からは少し離れますが、子が未成年である場合、妻が、自身が面倒を見切れなくなったあとや自身なきあとの財産管理を信頼できる人物に任せようと考えた場合、子に代わってその人物と「任意後見契約」を締結して自身なきあとに備えるということも考えられます(前述の成年後見人等の法定後見制度は、後見人に誰を就けるかという最終決定権が裁判所にあるため、必ずしも親が望む人物が後見人に就けられるわけではないなどの点で任意後見制度と異なります。)。

まとめ

設例を基に「親なきあと」の財産管理に関し、親のすべき対策についてご説明しましたが、それぞれの方の置かれている状況により必要な対応が異なるので、この度の説明が、ある方にとっては必ずしも解決策にならないということもあろうと思われます。
また、最初にお伝えしたとおり、この問題については、一つのことをしておけば後は大丈夫という解決策はありません。
時の経過に伴って変化するお子様の障がいの程度や家族の増減、信頼できる人物ができたなど周囲の状況の変化により、必要な対応策は変わってくるものと理解いただき、その都度、対応の見直しや必要な対応の追加を中長期的なスパンで検討していくことが必要です。


本コラムの説明では解決できないお悩みを抱えている方や、遺言書の作成や死後事務委任、信託制度などの利用を考えているもののどうしていけばいいかよくわからないというお悩みをお持ちの方は、是非、あかし興起法律事務所の弁護士渡邉友に一度ご相談ください。
弁護士が親身になってご対応いたします。

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